私はゴールデンカムイのアシリパさんが好きです。
彼女はとても魅力的。男勝りであり、女であることも受け入れている。
そのままのアシリパさんでさまざまな局面を乗り越えていく。
少女から大人へと変わったらどうなっていくのだろう。
また時代に沿ってアイヌとしてどう生きていくのだろう。
そんな未来にまで想像がふくらんでしまう可能性に満ち溢れたヒロインです。
ゴールデンカムイ アシリパさん その生い立ち
アシリパさんはポーランド人と樺太アイヌの血を持つ父 ウイルクと北海道アイヌの母との間に生まれた目の青い、けれど黒髪の美しい、両親の美しいところをよいとこどりしたような美しい少女です。
お母さんは生まれて間もなく病気で亡くなったとのことで、育ての親は祖母の「フチ」と父親のウイルクになりますが、アシリパさんが幼い時にウイルクは金塊を移送中のアイヌの仲間達と共に「のっぺらぼう」に殺されたことになっていました。以来小樽近郊のコタン(村)で祖母のフチとともに暮らしてきました。
(ちなみに「フチ」とは祖母を表す言葉で、敬愛を込めた呼び名です。)
ゴールデンカムイ アシリパさん 青い瞳
青い瞳をもつアシリパさん。アイヌでも珍しいのでしょうか。それともウイルクの出生した樺太では一定数いらっしゃるのか。かつてのロシア帝国の流刑地が樺太であったことから、樺太では青い瞳をもつアイヌもいらっしゃるかもしれませんね。ただ、北海道のアイヌでは珍しいのではないでしょうか。
ウイルクの出生地は南樺太(サハリン)とされています。ポーランド人の父親が樺太に住むことになった経緯、ウイルクの人生への影響、これらをかんがみるとこの物語の起点がアシリパの祖父にあるように思えます。
青い瞳のヒロインの登場!!物語が国境を越える、壮大な世界への気配が第一話から感じられるのです。
それではなぜ青い瞳のアイヌが北海道にいるのでしょう。
これはウイルクの生きてきた道、その経緯が関係しています。
ウイルクは樺太と北海道までを併せた「極東連邦国家」を樹立することを望んで活動していたパルチザン(フランス語で解放軍の意味合いが強い。)でした。
やはりポーランド人であり、流刑の地 樺太で生きた父親の影響も大きいかもしれません。どんな人だったのでしょう。
そして実際に、南樺太には先住民として樺太アイヌ(樺太アイヌ語でエンチウ)や二ヴフとよばれる少数の民族が存在していました。樺太アイヌは、北海道のアイヌや千島列島に住む千島アイヌとは異なる文化・言語をもっており、着物は白地でイラクサの繊維で織られており、施される刺繍は絹糸で西洋風。
一方、北海道アイヌは、筆者も糸として持っていますが、オヒョウニレの木の内皮で織った布を着ていますので樺太アイヌと様相は全く異なります。
そして、物語のその後の時代、太平洋戦争末期、旧ソ連軍は旧ソ連と日本の間で交わした条約を破り、樺太に侵攻します。ウイルクが憂いていたことが実際に起こります。そうして樺太アイヌは北海道へ移住をすることになります。
民族の消失。生活を危ぶまれることを憂い、かの土地を奪われては樺太アイヌとしてのアイデンティティも失われる。大国に侵食されることを憂いた若きウイルクは抗いました。
ウイルクは仲間と共に帝政ロシア皇帝の暗殺を実行し、テロリストとして逃走します。
逃走の旅の果てに、最終的には北海道へ仲間のキロランケとともに移住し、小樽で家族を持ち、娘を授かります。
それがヒロインのアシリパさんですね。
ゴールデンカムイ アシリパさん 幼少期
母の居ないアシリパさんにとって父のウイルクは大きな存在。
彼はアシリパさんに、アイヌ女性として生きるための刺繍や繕い物、家事ではなく、
アイヌの男性が学ぶ狩猟の技術や北海道の大自然の中で生き残るための知恵とサバイバル術を教え込みました。
ある時ウイルクは娘のアシリパさんに一人で赤毛のヒグマを斃すよう求めます。幼少期です。
これらは普通のアイヌの男性に求められるもの以上のものだったと思います。そう、生き残る力。それだけではなく、潜伏し続ける力。活動家として生きる力。
アシリパさんの目は真実を見据える力がある。と筆者は思っております。自分の眼で見定める。とても少女のものとは思えない力です。アイヌとしての生き方が培わせてくれたものもあるでしょうが、自然の中で命の瀬戸際でのやりとりをさせられたからか、肝は座るし、ギリギリの瀬戸際まで目をそらさないで物事を見定める力があるようにおもいます。
網走監獄で、杉本に責められたウイルク。アシリパさんをふつうに生きていくのでよいではないかと責める杉本。けれどウイルクはこう答えます。
「アシリパは山で潜伏し戦えるよう・・・仕込んだ。」
この言葉は読者から怒りの声があがったそうです。
未だ日本も国家として未熟であり、他国の侵略を意識しなければならない時代。境界線が曖昧な世界も数多く残されていたと思います。自国の領土や定義を明確にする為に多様性はどんどん削られていきました。その際には、現在のように思想や法で守られる世界とは異なりました。
武力が存在し、力で人を支配する。軍隊が力を持っていた時代。
アイヌはこの時代の混迷の先端に立たされていました。
声なき弱いものは踏みつけられ歴史から消される。
ウイルクはアシリパさんがこの先生きる未来とアイヌの未来を重ねていたでしょう。
どうすべてを守るか。みずからの顔の皮膚を剝いでまでウイルクは民族の存亡の為に闘います。
生半可なものではありません。私達の時代には想像を絶する覚悟。
それが娘を守り、アイヌの生きていく道を守るすべ。
ウイルクはアシリパさんとずっと一緒に生きていくつもりはあったのでしょうか。
別々になっても生き残れるよう、
そして民族の未来を託せる「種」をアシリパさんの中にうえつけたのかとおもいます。
ゴールデンカムイ アシリパさんのプロフィール
アシリパさんの名前の由来
誕生日は一月一日ということ。
名前のアシㇼパをアイヌ語でみると、「次の年」
つまり「新年」、そして「未来」という意味があります。
詳しくみてみると、
Acir(アシㇼ)は「新しい」
paは「もの、存在・時」
→「新しい人」・「未来」
また、発音は「アシル」が本当は近いようです。
アシリパさんは自分のことを名前の由来からか、「新しい時代のアイヌの女」と語っています。
アイヌの女性たちはアシリパさんくらいの年齢から二十歳くらいまでかけて口の周りや手、腕に青い入れ墨を完成させます。意味は一人前の女性とか魔除け、結婚の条件等多々ありますが、アシリパさんはこれを古いといっており、施しません。アイヌの教えは大切に守っていますが、因習にはとらわれない様子がみられます。
また、作者の野田サトル先生は、アシリパさんの名前の候補を4つ位考えていたそうです。
候補の中からアイヌ語を監修した中川裕さんが選んだそうです。
例に、「シノッチャ」(みんなで楽しむ時に唄を歌うという意味)」という候補があったそうですが、「アシㇼパ」って最初の始まりの文字「あ」から始まるからか特別な強さを感じる。新しいの「あ」ですし、明日の「あ」。私のこじつけですが、アシリパさんのキャラクターにうってつけかと。
ちなみに日本政府がアイヌに日本国籍を与えるためという名目で行われた施策。
和名をもたせるということ。
『小蝶辺明日子』
これがアシリパさんの和名です。
この苗字はあえて珍しいものにされアイヌとわかるようになっていたとか。
明日子はアシリパさんの名前の由来そのものですね。
この和名が物語のキーワードとなって廻り始めます。
ゴールデンカムイ アシリパさんの幼名
アイヌでは幼いころ、『汚いもの』で命名するということで、アシリパさんは
「おじいちゃんの尻の穴」という意味のエカシオトンプイという幼名がつけられていました。
汚いものには悪い魔物も寄り付かないだろうという考えということで、子供を守る為に愛しいものを魔物から護っていたのでしょうね。言霊を信じる強さを感じます。
世界中をみてみると一生の内に名前がころころ変わる民族もあります。
相手によってよばれ方が変わったりするところも。
日本でも明治時代以前の武士は幼名があり、元服(成人)すると正式な名前(諱(いみな))を与えられるのですが、それが使われることはほとんどなかったそうで、普段は通称で呼ばれ、通称は一生を通じてころころ変わりました。
明治政府が諱と通称の併用を禁じ、日本全土の戸籍を作り上げました。
近代的な国家を目指し、国民全体を把握して「中央集権型の国家」を作り上げるためですね。
その過程でアイヌも日本国家に取り込まれたわけです。
ゴールデンカムイ アシリパさんの好き嫌い
苦手なものは『ヘビ』。
あんなに戦闘能力に長けていて冷静で自然と共に生きているアシリパさんですが、ヘビが苦手というのが人間らしくてよいところ。弱点のない人間はいないのですね。
好物は、動物の脳みそに塩をかけてたべること。北海道中の珍味を食べ歩きますが、日本人の我々には驚きの食材ですねっ。勿論アイヌの人達には身近な食材ですが、このグルメ旅、目からウロコです。特にラッコ鍋、おもしろかったなあ(笑)
杉本のオソマ(味噌)。
実際にアイヌの方たちは味噌やカレー等の和人が食べる茶色い食べ物を敬遠したという記述があります。未だ味噌は自家製の時代であまりみかけることもなかったからだとか。
未成年のアシリパさんですが、お酒を嗜み、絡んだり暴れたりと面白いキャラに変貌しますね。
また、杉本佐一は父のウイルクと同様 顔に傷がありますが、死をも恐れぬ戦い方や恐怖に飲み込まれない様子も父と近いのか、杉本佐一を恋慕していく様子がみられますよね。男性の好みは父似、本当の強さ、優しさがある方でしょうか。
実際のアイヌの方々の考えと同様かはわかりませんが、祖母のフチが杉本佐一をアシリパさんの婿にならないかと勧めたり、よそから来た青い目のウイルクを娘婿にしたりと、アイヌのコタンではよそ者を、または異文化の人間を血に受け入れ許容できる懐があるのでしょうか。それとも野生生物のように強いものを子孫繁栄にえらび、よそからのオスをグループに受け入れるのか。
一般的に、アイヌの方々の風習では、恋愛結婚も一般的だったそうで、婿入りにも柔軟だったそうですよ。
ウェンカムイ=人を殺した獣が悪い神になったというもの。この人を殺すとウェンカムイになるというアイヌの教えから、アシリパさんは人の命を奪うことを忌避しており、作中で穢れのない人間としていられるよう護られている様子もみられます。
こういった命のつながりに関するようなものについてはアイヌの教えを優先します。
ゴールデンカムイ アシリパさん 刺繍の意味
アシリパさんが頭に巻いている布。「マタンプシ」といいます。
アシリパさんの黒髪を際立たせており、さらに知性も感じさせる。お護りのようでもあり、美しさも引き立てている。
青い染色が施された布。刺繍の紋様が特徴的な布。
青というと藍染めを思い浮かべますが、北海道にはインディゴ成分を含んだ蝦夷大青という植物が古く自生していたとされ、様々な民族が自生した藍で染めているなか、異なる植物染めが行われていました。
また、アイヌ民族には「文字」がありません。言葉もどこかの国と系統が近いということもなく、独自のものだそうです。
刺繍の紋様は自然を抽象化したものであり、アイヌとカムイ(霊性、神)をつなぐものだそうです。
アイヌの方々は子供のころからこの紋様を描く練習をします。そして、男性は彫刻、女性は刺繍と身近なものにカムイを宿します。マキリ(小刀)は男性が作るものですが、紋様を装飾して結婚する女性、好いた女性に贈ったり、魔除けにしたり。女性はテクンペ(手甲)を愛する男性に贈ります。紋様は気持ちを伝える上では言葉同等ではないでしょうか。
アイヌの方々はこの紋様に呪力があると信じている。と私は知りました。
紋様のモチーフは自然です。生きることは自然をどう理解するかに直結していました。
自然と密接に関わり、生きるために命のやりとりをする。自然から与えられた自生したものと共に暮らす術。生きるためには感じ取ろうとする力も、祈りや願いも強いはずです。自然物から隠されているメッセージを読み解く力。自然物の理や、目に見えない領域の力を沢山感じ取り、活かしているといってよいでしょう。
子供のころより紋様に向き合うことで、古くからの多くの智慧を受け継ぎ、紋様から自然の力、メッセージをよみとく力を磨いていく。カムイとの対話。
紋様には渦巻紋(モレウ)、棘紋(アイウシ)、目紋(シク)という種類があり、それぞれを組み合わせて様々な種類が作られました。
アイヌ文化では、植物の棘には呪力が宿るとされ、タラの木、ハマナシがモチーフに使用されています。日本でいう神棚に生ける榊や英語圏でのヒイラギも神聖なクリスマスに古くから採用されていますよね。他民族ですが同様に古くから植物の棘に霊力が宿ると考えられていたそうです。
また、目の紋様はアイヌ民族以外でも古くから強い魔除けとして世界各地で用いられており、トルコでいうとナザール・ボンジュウという青い目の模様のガラス細工が邪視(嫉妬や悪意)をはね返してくれるとされ、古代エジプトではウジャトの目という神様の神聖な目の加護を受けれるというものがあります。日本でも猪目、籠目、網目などがあり、火よけ、魔除け、また、網でとらえるなど、目の多いもので一網打尽を狙ったり、悪いものは目の多いものを嫌うという言い伝えから、見つめて封じるといった狙いがあります。
ちなみにこの紋様で北海道でもどの地域のアイヌなのかがわかるそうで、同じ北海道でも地域性もあるのかと思うととても興味深いです。北海道はとても広いです。海に近いところ、内陸、山脈に近いところ、流氷などもみられるより北の地域などアイヌ民族といっても一つには収まり切れない多様性があるのですね。
厳しい冬の間に女性は家族の衣類に刺繍を施しました。家族を悪いものから護るよう、その一針一針はもの凄い集中力を要し、一日に何時間も作業できるものではなかったそうです。
護符のようなものを作製していたともいえますね。
衣類においては手首、首元などにその刺繍を施し、衣装の開きのある場所から魔が入らないようにする意味合いがあるそうです。
生活の至る所にカムイを宿すわけですから呪力の結界の村…ともいえそうです。

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